
きのうの記事でご紹介させていただいた、古き好き日本の門前町の姿を残す、成田山の表参道・・・
その街並みを舞台に例えるならば、もちろん主演は望楼を持つ木造三階建ての「大野屋旅館」なのですが、それに負けずとも劣らぬ助演俳優はこの「梅屋旅館」。
それも、街並みの景観に於いては上の写真のようにこれがなければ主演の魅力も半減してしまう程のいぶし銀とも言える存在感なのです。

江戸時代に建てられた築百三十年の大規模な木造三階旅館建築は老朽化も目立ちますが、窓枠などの建具もアルミに替えられることなく木製のまま・・・
昔日の日本旅館の姿を今に残す、とても希少な僕にとっては非常に興味をそそられる佇まい。



旅館の入り口には「講」の木札が掲げられているように、この「梅屋旅館」は成田詣の参拝客、すなわち成田講をきっと昔から受け入れていたのでしょう・・・
いかにも成田を象徴する宿泊施設だったんですねェ~

江戸時代、人々の暮らしが安定し、豊かになってくると庶民の娯楽として寺社参りが盛んになっていくのですが、関西では伊勢、関東では富士やこの成田が人気を集めたと聞きます。同じ仏様を信仰している者同士が集まってつくる団体が「講」なのですが、各寺社は積極的にこの講の数を増やす”営業努力”をしていたそうで、もっとも成功した一つが成田山新勝寺だったのかもしれません。
なにしろ江戸で人気の歌舞伎役者、市川團十郎が成田不動に帰依して「成田屋」の屋号を名乗り、それにちなんだ芝居をうったりしたのですから・・・
今で言うと、ジャニーズ事務所のトップアイドルをキャンペーンに起用してその主演作品にプロダクトプレースメントとして出ちゃうようなもんかもしれません。
いずれにせよ江戸から近いこともある成田は、相当繁盛したことが容易に想像できますよネ。

で、そんな「梅屋旅館」、玄関先で立て看板を準備していた若い方に伺うと、残念ながら現在は旅館としての営業はしてないのですが、食事は出来るんだそうで・・・
う~ん・・・
今しがた「川豊」で鰻重食べたとこなんだけどなァ・・・
『さっき飯食ってビール飲んだばかりじゃん!なに考えてんの?』と僕の左脳は問いかけ、
『さっきのは朝飯。こんどは昼飯でいいじゃん。その間隔がちょっと短いだけだョ!もうこんなチャンスないかもしれないョ!』と右脳は囁きかけてきます・・・
もうこうなってくると、この旅館への興味は満腹度を上回り、理性をも凌駕して僕の足は自然と玄関口へ・・・
いやァ~完全に右脳の勝利となってしまうわけなのです・・・

福助人形に迎えられ、案内されたのは二階。
そして食事が出来るまでの間は、店の若い衆のご厚意で館内を案内していただきました。



二階から参道方面を臨むと、目の前には「梅屋別館」・・・
なかなか良い眺めです。
そして三階へ・・・


その三階は間仕切りのない大広間になっていました。
やはり成田講の札が掲げられた空間は、おそらくは江戸の時代から参拝客の団体が夜ごと宴会でも催してきたのでしょうか・・・
思わず、そんな姿が浮かんでくるような気がしてしまいます。



そんな三階大広間から参道を見下ろす景色は・・・もう絶景!
瞬時にいにしえの旧き好き日本の門前町にタイムスリップ・・・って感じです!!

さて、再び階段を降りて二階へ・・・
こんどはいかにも”昭和な”遺産、
クラシックな料理を運ぶためのエレベーターが・・・




二階は襖による仕切りはあるものの、このような広い三つの座敷で占められていました。なので成田講の団体客はその人数・規模によってここで休息をしたり泊まったりしたんだと思われます。基本的には全てが個人客用というよりは団体客を受け入れるための構造となっていたんですねェ~







さあ、いよいよ朝食直後の昼食!?
場所は同じく二階の、舞台のような床の間が誂えられた広い座敷でした。
これまた昭和の時代を思わせる装置(?)で暖められた空間でいただくのは・・・


鯉のあらい定食!
やっぱり・・・ビールも頼んじゃいました!!
もちろんお腹は空いてなかったけど、
いかにも一昔前の料理にキリンラガー・・・
それを、ノスタルジックで歴史的な成り立ちを体現している空間でいただいているという事実だけで、もうDeepな感動&満足感・・・
ココロ動いてしまいます。



結局・・・客は僕一人。
この「梅屋旅館」、必ずしも万人にお薦めするつもりもないし、小綺麗なレストランやオシャレなカフェとかが好きな人には決して合わないと思います。
だけど、成田講華やかなりし往時・・・タイムマシンで江戸~明治~大正~昭和の庶民の娯楽をリアルに体験することに興味がある人にとっては、唯一無二な存在なんじゃないかと。
それどころか、ノスタルジックな成田山表参道に於いては、最も濃くその特徴を味わえる場所かもしれませんョ!
もしかすると成田山って、江戸時代の人々にとっては東京ディズニーリゾートみたいなモンだったと思うのですが、この「梅屋旅館」なんてさしずめ今の「アンバサダーホテル」みたいな存在だったんじゃないかナ・・・??


百年前のエンターテインメントにしばしイメージトリップ・・・
あー・・・満足満足、&超満腹、&なんだかアルコールがまわってきた・・・
でもなんかHappy・・・
そんな感じで、JR成田駅を目指して僕は坂道を登り始めました。
「まだ12時41分の電車までは20分もあるし、大丈夫だよナ」
なーんて安心しながら・・・
しかし・・・重くなったカラダと半分になった歩幅には気がつかなかった!
う~ん・・・このあとまさかの悲劇(喜劇?)が待ち受けていようとは。。。
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